FLOW-3D World Users Conference 2013のご報告


FLOW-3D World Users Conference 2013のご報告(2013年9月18~20日)

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今年のFLOW-3D World User Conferenceは、五大湖の一つミシガン湖のほとりにあるイリノイ州シカゴにて、2013年9月18日(水)~20日(金)に開催されました。日本からは、代表の丸湾、技術の根本、田代、営業の村山が参加しました。

成田から11時間のフライトでオヘア空港に着きましたが、外に出た瞬間「寒い」と感じました。到着時の気温は15℃くらい。東京は30℃近くあったのでかなりの気温差です。他の日は28℃くらいまで上がることもありましたが、全般的に湿気がなく、『風の街』*1らしく風があって、暑さを感じる事はほとんどありませんでした。それでもホテルを
含めて建物の中は冷房がガンガン効いていたので、上に何か羽織っていないと寒くて仕方がない程でした。

*1:風の街(Windy City)はシカゴのニックネームです。高いビルが多いせいか、実際に街中でも風が強かったのですが、由来は別にあるようです。何でも昔ニューヨークと博覧会の開催地を争った際に、ニューヨークのマスコミがシカゴ人をおちょくった表現から来ているとか…(諸説あるようです)。アメリカの都市にも東京と大阪みたいなライバル関係があるのかもしれません。

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そんなシカゴの街並みは、個性豊かなモダンな高層ビルが多く、古い味のある建物や橋、鉄道なども混在していて、どこを見てもスタイリッシュで恰好よかったです。眺めているだけで楽しむ事ができました。清掃も行き届き、歩いた範囲では治安も良好そうでしたし、街を歩いている人達もどことなくおしゃれに感じました。

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そして市が面しているミシガン湖はとにかく大きかった。実際に目の当りにすると海にしか見えませんでした。巨大なヨットハーバーには大小様々なヨットが並んでおり、平日の午後なのにヨットの上でパーティをしていたりして、アメリカの豊かさを感じました。

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今回の会場はシカゴの中心街に位置するアラートン(Allerton)ホテルでした。周辺は高級ブランドショップが立ち並ぶ「マグニフィセントマイル」という地域です。ホテルの前にAppleストアがありましたが、新しいiPhoneの発売日には多くの人が並んでいました。

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ホテルは1920年代に建てられたという由緒ある建物で、年季の入ったエレベータに歴史を感じつつ、最近改装されたのであろう清潔な室内や、行き届いたサービスの御蔭で落ち着いて滞在する事が出来ました。部屋の中で無線LANが使えたこともポイント高かったです。

9月18日(水)トレーニング、ポスターセッション/レセプション

この日は午後から新しいポストであるFlowSightのトレーニングがありました。FlowSightは汎用ポストプログラムのEnSightをFLOW-3D用にカスタマイズしたものですが、FLOW-3D次期バージョンのV11では、FlowSightが一つのタブとしてFLOW-3Dに組み込まれる予定です(従来のAnalyze/Displayタブと併用になります)。ボリュームレンダリングや
流線アニメーションなどの新しい機能が紹介され、チュートリアルを通して使用方法を学びました。

その後、夕方からはポスターセッション&レセプションでした。日本からは、大阪大学・才田先生のレーザー溶接、三重大学・矢野先生の形状最適化、大日機械工業様のF.SAIを用いた構造連成解析の3枚のポスターを展示しました。軽食とアルコールを取りながらのセッションでしたが、ポスターに興味を持った参加者から熱心な質問をお寄せいただきました。

9月19日(木)ユーザーカンファレンス1日目

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木曜・金曜はユーザーカンファレンスです。まずFlow Science社(以下、FSI)のJensen社長から開会の挨拶がありました。

午前中はFSIのスタッフによる開発状況の報告でした。

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まずは副社長のBarkhudarov氏からソルバの説明がありました。大規模計算版のMP V5.0に関するパフォーマンス向上の報告に始まり、FLOW-3Dの次期バージョンV11について、鋳造分野(サーマルダイサイクリング、コアガス、デンドライト)、水理分野(洗掘モデル)、FSI/TSE、表面張力モデルなどの機能向上が紹介されました。また、V11では、サブドメイン、キャビティや固体形状に沿ったメッシュブロック、入れ子メッシュを用いた局所的な境界条件、部分的に重なるマルチブロックメッシュなど、メッシュ周りに多くの新機能が予定されています。

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続いてマーケティング部門のIsfahani氏からGUIについての説明がありました。新しいポストFlowSight、V11のGUIの改良点(FAVORを用いたSTLの欠陥チェック機能、入力欄への単位表示、不使用モデルのプロパティ非表示など)、FLOW-3D CASTの次期バージョンV4.0についてプレゼンテーションが行われました。特にFLOW-3D CAST V4.0では、GUIがFLOW-3Dライクに大幅に変更され、ファイル形式やDBなども大きく変わる予定です。

午後は鋳造分野のユーザープレゼンテーションでした。

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トップバッターとしてCRP社(インド)のPari氏からHPDCの解析事例についてプレゼンテーションがありました。CRP社は主に自動車部品を扱うサプライヤーで、製品デザインから実際の鋳造、製品加工まで一貫生産を行っているそうです。3つの解析事例を通して、型やランナー、ゲート位置などの修正例を紹介いただきました。

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次にLitter Diecast社(アメリカ)のLitter氏から、ショットスリーブのパフォーマンス向上とプランジャーチップの高寿命化を目的として、FLOW-3Dを用いて熱解析を行い、高熱による変形を防ぐために冷却チャネルを設計された事例をご発表いただきました。

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コーヒーブレイクの後、JONSHIN MOLD社(台湾)のLin氏から、自動車部品の鋳造例をご紹介いただきました。フィンがついた円盤状の部品について、円盤の中心にゲートを配置する「セントラルゲート」方案を考案し、FLOW-3Dでメリット・デメリットをシミュレートしたそうです。

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次にShiloh Industories社(アメリカ)のReikher氏から、ダイ冷却チャンネルの改良案として、微細なマイクロチャネルを用いた例をご発表いただきました。マイクロチャネル内で冷却液が蒸発した際の潜熱により、より高い熱伝達率を得る事ができるそうです。ご発表では、流路の長さに熱伝達率が依存するというモデルを用いてFLOW-3Dによる熱解析を行い、実測温度と合わせこんでいました。

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続いてBholster Technologies社(カナダ)のBhola氏によるご発表がありました。鋳造にあまり詳しくない技術者でもシミュレーションによりプロセスの支配的な物理現象を理解する事ができたという事例を通して、ベテラン技術者の常識に捕われないモノづくりの可能性をご提案いただきました。

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木曜日最後のプレゼンテーションは、HPC Advisory CouncilのLui氏によるMP版のベンチマーク結果のご報告でした。HPC Advisory Councilは、HPC(ハイパフォーマンスコンピューティング)の推進を目的としたワールドワイドな組織で、360社以上が参加しているそうです。MP V5.0を大規模クラスタ環境下でテストした結果、大変良好なスケーラビリティを得られたとの事でした。

9月20日(金) ユーザーカンファレンス2日目

カンファレンス2日目は水理分野を中心としたユーザープレゼンテーションでした。

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朝1番のプレゼンテーションはCEI社(アメリカ)のColburn氏による汎用ポストプログラムEnSightのご紹介でした。

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次にフロリダ工科大学のSchulman氏から、宇宙空間でのスロッシング実験とその解析についてご発表いただきました。2014年にNASAが国際宇宙ステーションで予定しているSSE(SPHERES*2 Slosh Experiment)は、実験プラットフォームの軌道に対して液体タンクのスロッシングが与える影響を調査する実験です。FLOW-3DのGMO(一般移動物体)機能を用いて解析を行っているそうです。

*2:SPHERESはNASAが開発している球形ロボットです。どうしてもガンダムのハロを連想してしまいます。

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コーヒーブレイクを挟んでHydro-Quebec Equipement(カナダ)のBilodeau氏から水理分野におけるFLOW-3Dのバッフル機能の利用事例をご紹介いただきました。いくつか検証例を上げていただきましたが、板状の障害物を簡単に扱え、精度も悪くないと高評価でした。

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続いてBaird and Associates社(アメリカ)のRozumalski氏から、魚の遡上のためのダム放水路の設計事例をご紹介いただきました。メイン州のミルフォードダムでは遡上用の魚道がありますが、魚をそこに誘導するための周りの流況設計にFLOW-3Dをお使いになられたそうです。

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ランチ休憩の後、Ibis Group社(アメリカ)のSaunders氏にフラップ型の波力発電機についてご発表いただきました。板状の構造物が波で揺れるタイプの発電機ですが、いくつかのソフトウェアを検討した結果、波の動力学を追跡するロバストなVOFと、フラップの運動をモデル化できるGMO(一般移動物体)機能が決め手となって、FLOW-3Dを選択されたとの事でした。

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次は中東工科大学(トルコ)のYildiz氏による橋脚の洗掘問題にFLOW-3Dを利用された事例のご発表でした。FLOW-3Dの洗掘モデルを用いて計算し、実験との比較を行ったところ、穴のサイズはやや小さく評価されたものの、穴の位置を正確にシミュレートすることが出来たとの事でした。

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続いてインドの代理店であるKaushiks社のBalasubramanian氏から、顧客であるLarsen&Toubro Infrastracture社の事例発表がありました。ダムの放水を解析と実験と比較して、誤差が10%以内と大変良好な結果が得られたそうです。

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コーヒーブレイクの後、今年のユーザープレゼンテーションの大取を務めたのはアイダホ大学のSavage氏でした。魚が中で休むことが出来るよう、排水溝に構造物を設けて、流速を下げて水位を上げるプロジェクトの紹介でした。FLOW-3Dを用いて、W形のLabyrinth堰と単純なスリット付の板との比較をされていました。

その他、各国ユーザーにご協力いただいたアンケートの結果報告、全体的な質疑応答が行われ、最後にFSIのJensen社長から、来年の開催地がカナダのトロントになることが発表されて、大変活況のうちにカンファレンスが閉会しました。

今年も多くのユーザープレゼンテーションがあり、FLOW-3DのV11やFLOW-3D CASTのV4.0では多くの機能向上が予定されている事が発表され、参加されたお客様にもご満足いただけたかと存じます。弊社でも新バージョンのリリースに向けて、バージョンアップセミナーやドキュメントの整備などの準備に勤しむ所存です。今後ともFLOW-3Dの進化にご期待ください。

最後になりましたが、ポスターにご協力いただいた大阪大学様、三重大学様、大日機械工業様、アンケートにご協力いただいたユーザー様に感謝の意を記します。

文責:営業部 村山

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