数値粘性 および人工粘性とは


数値粘性および人工粘性とは

数値流体力学(CFD)の適用で成果を上げた最も古い例としては、第二次世界大戦中に進められたマンハッタン計画に関するものがあります。研究者たちは、原子爆弾の開発に不可欠なテーマである衝撃波の伝搬と相互作用を理解するために、計算による解析を行いました。

衝撃波の不連続性

衝撃波は、数学的には不連続な現象として扱われますが、どのような数値解法を採用しても問題を引き起こす可能性があることが早期から認識されていました。当然ながら、衝撃波は物理的には不連続な現象ではなく、分子の平均自由工程と同程度の厚さを持つ非常に狭い遷移層です。衝撃波に対して質量、運動量、エネルギーの保存条件を適用するには、運動エネルギーから熱エネルギーへの変換が行われる必要があります。研究者たちは、早い時期から、この変換を物理学的には粘性消散として表せることを理解していました。

研究者たちは、非物理的に大きな値の粘性を組み込むことで、計算で解くことができるまで衝撃波の遷移層を厚くすることに成功しました。こうして人工的に粘性の値を増大させたものを、「人工粘性」と呼ぶようになりました。

粘性消散

粘性が十分に高くない場合、衝撃波の背後で、正しい平均速度の周囲で速度が振動することが確認されています。こうした振動は、熱エネルギーを巨視的に表したもの、つまり変動する分子エネルギーの代わりに変動する運動エネルギーとして解釈することができます。水中で発生する衝撃波ともいえる跳水が起こると、この変動するエネルギーは、跳水の背後で連続する大渦として現れます。

人工粘性

人工粘性の厳密な定式化や必要となる値の大きさについては、長年にわたり、さまざまな改良がなされてきました。強い圧縮を受けており、圧縮率の1乗および/または2乗の関数として表される大きさを持つ領域にのみ、この粘性を適用するテストも開発されています。こうして重ねられた改良の成果は、Godunovによって開発された手法によく表れています(S.K. Godunov、Mat. Sbornik Volume 47、p.271 (1959)、JPRS 7225としてU.S. Dept. Commerceにより翻訳、1960)。この手法では、局所的な「衝撃波管」と呼ばれる単純な波動実験装置を用いて、衝撃波および希薄波の存在と伝搬特性を捕捉します。

数値粘性

人工粘性は、数値的な理由から考案されましたが、物理的プロセスをより簡単に計算できるよう修正するために選択され、導入された概念です。人工粘性は、 数値粘性 と混同してはなりません。数値近似のタイプによっては、数値粘性は望まれません。

数値粘性は、オイラー方程式の運動量移流項に対する離散近似や、ラグランジュの定式化で使用されるリゾーニング処理から生じます。その影響の源は、近似スキームの基盤にある要素やコントロールボリューム内で均質化を行うために用いる仮定です。たとえば、対流フラックスを通じて隣接セル間で運動量が交換されると、交換から生じた任意要素の寄与分が、すでに存在していた運動量に加えられて、その要素の平均運動量の新しい値となります。この合算、すなわち均質化プロセスによって平滑化効果が得られます。時間が進行して次のタイムステップに進むと、この新しい値は、流れの方向で次に位置する要素に渡されます。解析を時間的に前進させるために必要となる多数のステップにわたって、この平滑化処理が繰り返されることで、流れの方向で運動量の「拡散」が生じます。

厳密にいえば、数値拡散は流体対流と関連付けられるもので、実際の粘性と関連付けられる正しい応力のひずみ速度依存性を有しないため、真の粘性拡散の挙動とは異なります。たとえば、数値拡散は、数値近似での絶対基準座標である計算格子の選択によるため、ニュートン力学における相対性原理を満たしません。また、数値拡散量は格子内を通過する流れの速度に比例するため、実際の粘性が有する回転対称性を有しません。

数値近似

数値粘性 による影響を最小限まで抑える数値近似スキームの研究は、CFD分野で大きな部分を占めている継続的な活動です。このようなスキームを開発する難しさは、計算安定性を維持して分散誤差を平滑化するために、数値解法に、常に何らかの平滑化処理を組み込む必要があることです。分散誤差とは、異なる格子解像度要件を持つ解の成分が、若干異なる速度で格子内を伝搬する可能性があることが原因で生じる誤差です。これが生じた場合、そうした成分が強化される、あるいは相殺されるなど、解で非物理的な振動が発生します。

これに対処するコツは、正確性を維持する(つまり、最小限の数値的平滑化を組み込む)と同時に、ロバストである(つまり、分散誤差を補正できる十分な数値的平滑化を組み込み、各種の問題に適用できるだけの計算安定性がある)近似スキームを開発することです。

FLOW-3Dで実現できること

FLOW-3Dのデフォルトの手法は、極めてロバストな1次精度風上移流法ですが、若干の 数値粘性 を伴います。高解像度の格子が使用できない環境で、はっきりとした速度プロファイルを計算しなければならないために、この 数値粘性 が大きすぎると判断された場合、簡単な操作で2次精度の単調性維持オプションを選択することができます。

圧縮流れについては、FLOW-3Dの陰的連成による圧力-速度解法オプションを使用して衝撃波を捕捉し、衝撃波の背後に出現する振動を最小限まで抑えることができます。

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